2024年7月4日木曜日

幕間エピソード5

 ベヴァン君と黒猫アンタルヤ

作:参九朗


ベヴァン・ダンスワローは、アテネ魔術協会に所属する若き俊英、暗黒魔法を操る死霊魔術師である。

幼少時から、魔術原則をそらんじ、高等数学にも通じ、古代魔術言語を解析したため、特例措置として高名な魔術師の弟子の末席に加わった。

だが、最近急成長したMiranoMoira商会が、高度な魔法を駆使している疑いがあるので、親善交流研究員(スパイ)として派遣されることになったのだ。

端的に言えば、左遷である。

愛想もなく、口も悪く、正論ではあるが相手への配慮がない論破。そんなベヴァンは、魔術協会内で煙たがられていたのである。


ベヴァン

 魔術教会から新興商会への追放まがいの出向だと、悲観し運命を呪ったがとんでもない。アレキサンドリアに専用研究室をもらい、豊富な魔術設備、上限のない予算(あります)。郊外の一軒家で法の規制がないから(あります)、危険な実験もやりたい放題。その上、冥界の神オシリス様に知己まで得た(ありえない!)。

 バカ共(先輩)に使い走りさせられ、クズ(上役)に研究成果をかすみ取られ、派閥争いに明け暮れる老害(ジジババ)に睨まれる魔術協会にいたころに比べたら、まさに天国!

 定期報告なぞするものか、文句があるなら、エジプトまで言いに来やがれ!

俺はここで思う存分、魔術の深淵に溺れつくすのだ! はーはっはっはっは!!!


(優秀な研究者は、しばしば発声練習(高笑い)をすることで、精神の安定性を高めるのである)


ベヴァン

ふう。さて、今日も魔術研究をがんばるかな♪

……

ベヴァン

ちょっと、アンタルヤ。呪文書の上で寝られると、読めないんだけど。まったく…。ほら、前足を上げて…。

アンタルヤ

にゃ〜。


 使い魔のスフィンクスの化身、黒猫アンタルヤは、ベヴァン君の苦言も気にせず、一向に動こうとしません。


ベヴァン

仕方ないな。先に魔方陣を描くか。


 ところが、魔方陣のために円を描くと、アンタルヤはすすっとやってきて、円の真ん中にちょこんと座ります。 なぜ、猫は円が好きなのでしょうか。


ベヴァン

なんで、こっちに来るんだ。呪文書の上で寝てたじゃないか。


 さらには、大切な薬草畑の葉っぱまで、しょりしょりと食べ出します。


ベヴァン

こらっ。猫草はちゃんと用意してるだろ、あっちを食べろ。って、そこで吐くな、そこで吐くなっ。

アンタルヤ

げっげっ。

ベヴァン

もう、我慢ならないっ、アンタルヤっ!研究の邪魔ばっかりしてっ。そんな悪い子は、おやつ抜きだぞ!

アンタルヤ

にゃー、にゃー、にゃー。

ベヴァン

っく。そんなに泣いて(鳴いて)謝罪するというのなら、今回だけは許してやる。次はないからな。まったく…。


仲直りの証として、お気に入りのブラシを咥えて持ってくるアンタルヤ。


ベヴァン

お前、今朝ブラッシングしてあげただろう。俺は今から研究書類を読むんだぞ。まったく…。

ほら、そこに寝転んで。(いそいそ)


エジプトは今日も平和なようです。

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