『ハックルベリー・フィンの冒険(下)』を読んでいる。
言い得て妙というか、あの騒動の時の、そのままのような氣がした。
場面は、ハックルベリー君が『メアリ・ジェーンさんがここにいないこと』に対する、とっさの言い訳を言うというシーン。(P98~P100)
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「あらまぁ、先週はすごく元気だったのに! で、よくないの?」
「ひどいみたいです。ひと晩(ばん)じゅうつきっきりだったらしいって、メアリ・ジェーンさんが言ってました。みんな、あと何時間ももたないんじゃないかと思ってるみたいです」
「なんてことなの! いったいなんの病気だっていうの?」
ぼくは、うまい病気をとっさに思いつかなくて口からでまかせでいった。
「おたふくかぜです」
「おたふくかぜなの? おたふくかぜぐらいで、ひと晩(ばん)じゅうつきっきりなんかしないわよ」
「そうですね、ただのおたふくかぜなら。でも、このおたふくかぜならしなくちゃいけないんです。種類がちがうんです。メアリ・ジェーンさんは新種(しんしゅ)だっていってました」
「どこがどんなふうに新しいの?」
「いろいろほかの病気とまじってるんです」
「ほかの病気って?」
「えーっと、はしかと百日咳(ひゃくにちぜき)、それに丹毒(たんどく)と肺病(はいびょう)でしょ、あとは黄疸(おうだん)と脳膜炎(のうまくえん)も。ほかにもあるけど全部は知りません」
「信じられない! それのどこがおたふくかぜなのよ?」
「だけど、メアリ・ジェーンさんはそういってたから」
「いったい、どうしてそんな病気をおたふくかぜだなんていうんだろう?」
「さぁ、おたふくかぜだからでしょ。だって、はじまりはおたふくかぜだったんだから」
「そんなのおかしいわよ。最初に足の指をぶつけてけがして、毒を飲んで井戸(いど)に落っこちて、首の骨(ほね)を折って、脳(のう)みそがとびだして死んだ人がいるとするでしょ。あいつはなんで死んだんだい?とたずねられて『ああ、あいつは足の指をぶつけて死んだのさ』って答える阿呆(あほう)みたいじゃない。ぜんぜん筋(すじ)が通らないでしょ。それとおんなじよ。だけど、その病気、だれでもかかるの?」
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